2016年8月15日月曜日

賃貸の契約には印鑑証明書がなぜ必要なの?


新人からの質問


これは、前職時代で賃貸営業をしていた頃のエピソードです。
4月に入社したばかりの新人社員君にこんな質問をもらいました。

新人の今宮君(仮)は、26歳の色黒で身長180cmの大柄。一見するとジムのインストラクターなんじゃないか?って思うような新人です。彼は、昨年までメーカーに勤めていて、いわゆるモノ作りをしていたそうです。こんな大きな体で緻密な作業をしていたことが想像できません。



性格的には、まじめで寡黙。お客様とのコミュニケーションが一番大事な営業職という全く畑違いの仕事でしたが、先輩から教えてもらうことひとつひとつに、メモを取って一生懸命取り組む姿は好感が持てます。

駅前の営業店舗に配属され、直接一緒に仕事はしていませんでしたが、彼も僕と同様の野球経験者で一緒のソフトボール部のメンバーということもあり、その日は店長が不在だった為、僕に質問をしてきたのでした。


印鑑証明書を取り間違えた?



「田中さん、契約書類のことで質問があるんですが。」
「どうしたの?」

「この前、竹下さん(仮)が契約書類を持ってきてくれたんですけど、連帯保証人はお母さんなんですが、印鑑証明書はお父さんのものだったんです。」

「同じ家族なんで、これでもいいかな?って思ったんですけどダメですか?」

「うーん。」と僕はこの質問を聞いてうなってしまいました。

「同じ家族だからOK。という今宮君の気持ちも分からなくもないけど、連帯保証人本人の印鑑証明書じゃないとダメだよ。」

「そうなんですね。」
「僕は同じ家族ならそれで足りると思ってました。竹下さんのお母さんに連絡して取り直してもらうようにお願いします。」

「今宮君、そもそもの質問なんだけど、なぜ連帯保証人さんは印鑑証明書の提出が必要なの?それから、本人(賃借人さん)はなぜ認印でいいの?」
(鹿児島では、賃借人さんは本人確認資料=「運転免許証の写し」の提出が慣例となっています。)

「えーーっと、すみません。分かりません。」


怖いお兄さんから突然の電話があったらどうする?




「もし、ある日突然、今宮君のところに怖いお兄さんから電話があって、『お前、連帯保証人やろ!こいつの借りた金、今すぐ払え!』って見に覚えのない借用書を見せられたらどうする?」

「『僕は、こんな書類にサインした覚えはありません。』って言います。」

「だよね。でも、『お前の印鑑も押してあるやろ!』って言われたら?」

「『それも、僕の印鑑じゃありません。』って言います。」

「今度は、そこに今宮君の印鑑証明書が添付されていたら?」

「(しばらく沈黙して、)でもなぜだか分からないけど、僕じゃありません。って言います。」

「でも、印鑑証明書が添付されていたら、否定するのが急に苦しくなるよね?」

「はい。正直、自分が忘れてしまっただけなのかな?って不安になります。」

「印鑑証明書は、原則自分自身が役所に行って、印鑑登録カードを持っていって手続きしないと発行されない書類ってのは知ってるよね?」

「はい。」


印鑑証明書は意思表示の証明



「印鑑証明書は、『本人の意思確認』って意味があるんだよ。」
「本人の意思がないと、わざわざ役所に出向いて手続き印鑑証明書の発行なんてしないし、それに他人が勝手に発行できるものじゃないからね。」

「それに、オーナーさんは、賃借人さんは貸してる部屋に行けば会えるけど、連帯保証人さんには会わないでしょう。」

「だから、実際に会うことのない連帯保証人さんには印鑑証明書を添付してもらって、『間違いなく私が連帯保証しました。』っていうことを証明してもらうんだよ。」

「じゃないと、さっきの今宮君みたいに『僕じゃありません。』ってなってしまって、家賃の未払いとか、部屋を壊した弁償代とかを払ってもらえなくてオーナーさんが困るでしょう。」

「なるほど。そうなんですね。初めて意味が分かりました。」

「お客さんから、『なんで印鑑証明まで提出しないといけないんですか?』って質問はあるから、説明できるように覚えておいてね。」

「わかりました。ありがとうございます。」
と、彼は電話口でボソボソ言いながら、メモを取っているようでした。


賃貸は、未来に向けての継続取引



お客様からたまに「部屋を借りるだけなのに、印鑑証明書までなぜ必要なの?」と質問を受けることがあります。

質問されるお客様の内容から見て、家賃の滞納とかをするような属性(勤務先・年収等)ではないので、そうおっしゃる気持ちも分からないでもありません。

ただ、賃貸というのは未来に向かっての継続取引なので、現時点まで(過去)のお客様の信頼性は充分にあったとしても、未来のことは誰にも分かりません。事故・病気・会社の倒産など、ご本人の力の及ばないところで事情が変わってしまうこともあります。

なので、貸す側(オーナー)にとっては未来に起こるかもしれないリスクを担保する必要があるのです。その担保のひとつが連帯保証人さんにお願いしている印鑑証明書なんですね。